
世の中には光り輝くものがたくさんある。その中でも、人の五感を瞬時に刺激するのは、時に音楽だろう。
美しい韻律、深く染み渡る歌詞、その歌詞を口にする時、韻律に溶け込むもう一つの楽器でもあるミュージシャンの声。
SNSの発達により、クリックひとつでかんたんに新しい音楽に出会えるようになった今。私たちは、驚くほど速く世界中に広まった音楽が、名前も知らない人の心をあっという間に虜にする時代に生きている。
先週末、私は、今まさに新しい宇宙の中で見慣れないかけらに手を伸ばし、新しい第一歩を踏み出すアーティストに出会った。
「イ・スンユン」は、過去に韓国で大きな話題を呼んだシンガーソングライターである。そして彼は今、日本という新しい国へ自分の音楽を伝えようとしている。
✦ 韓国では、「イ・スンユン」さんを知らない人はいないと思います。しかし、日本の方々にとって「イ・スンユン」という名前は見慣れない名前かもしれません。
まずは、簡単な自己紹介、近況報告をお願いします。
イ・スンユン : 初めまして。韓国のシンガーソングライターのイ・スンユンです。
1stアルバム「Even If Things Fall Apart(廃墟になっても)」に続き、今年の頭に2ndアルバム「Shelter Of Dreams(夢の住処)」をリリースして、全国ツアーを行いました。最近は、様々なフェスティバルにも参加してパフォーマンスを披露しています。
✦ 今回、初めての日本コンサートとなりましたが、いかがでしょう?以前から日本でコンサートをしたいという気持ちはありましたか?
イ・スンユン : 本当に0.1%も予想していませんでした。最初から予想外のシナリオだったというか、こんなにも早く海外でコンサートができるとは思ってもみなかったです。
✦ それではこうしてコンサートを行うことはかなり不思議な経験なのではないでしょうか。感想をお聞きしたいです。
イ・スンユン : 最初に感じたのは 「僕が日本でコンサートをするなんて、本当に?How?Why?」ということです(笑) そして、 「日本でコンサートをすることになったんだ!」という感無量な気持ちも同時に湧きました。まだ日本にファンがいると実感できるほどファンの方々に会ったこともないので...。
先日、台湾でもコンサートをしたのですが、その時は動画のコメントやSNSを見て、台湾にもファンがいるということを実感できたんです。でも、日本語のコメントや、日本のファンの反応はあまり目にしたことがなかったので、まだ実感が湧かないというか、信じられない気持ちです。
✦ 今回のコンサートを通じて、これからは日本語のコメントや日本のファンの話をたくさん聞けそうですね。
イ・スンユン : そうなるととてもありがたいと思います(笑)
✦ 音楽フェスの場合、アーティストが心から楽しんでこそファンも本気で楽しめることができると思います。アーティストが緊張したり、気合が入っていないとテンションが下がるというか(笑) その一方、イ·スンユンさんは本当にフェスにぴったりなアーティストだなと思いました。
また、全国ツアーは長期間にわたって開催され、アンコールコンサートも2日間行われましたよね。単独コンサートとフェスはやはり何か違うと思いますが、それぞれ特に意識していた部分があれば教えてください。
イ・スンユン : 全国ツアーとして、自分の名前を掲げて単独コンサートをしたのは初めてでした。それで一番意識したのは、各地域のファンの方と何度も見に来てくださる方に、毎回違う感動と感情を感じてもらえるようにしたことです。ただ同じコンサートを繰り返すのではなく、地域ごとに新たな感情を生み出すことを目指しました。
一方、フェスの場合、僕に興味のない人もいるだろうし、その日、その場を楽しむために来ている人も多いと思います。だから、その人たちの一日を邪魔しない範囲で、僕も楽しくステージに立っています。そして、みんなが楽しめるパフォーマンスを披露できるように意識してライブに臨んでいます。
✦ 確かに、フェスは大勢の方が来場されて、特に自分の推しでなければ、ちょっとだけ聴いてSNS用に撮影だけして帰ることも増えましたよね。それでも「Pentaport Rock Festival」は、全日程(3日間)を楽しむために来る特定のジャンルを好きな人が多いので、みんな踊ったり、スラムしたりと、ちょっと大胆というか、ロックフェスならではの雰囲気があると思います。そのような雰囲気の中、「Pentaport Rock Festival」で一番記憶に残ったシーンの一つは「イ·スンユン」さんでした。特にステージの下に降りて、マイクをファンに渡したあの瞬間は忘れられません(笑)
去年までは、「Pentaport Rock Festival」で「僕の出番はパプタイム(ご飯タイム/밥타임)だ」と自ら叫ぶアーティストだったのに、今年は「観るべきアーティスト」になりました。その感想を聞かせてください。
イ・スンユン : 今年参加したフェスは全て楽しかったので、一番良かった公演を1つだけ選ぶのは難しいですが、「Pentaport Rock Festival」が一番印象に残っています。
フェスは多数のアーティストが参加するので、いわゆるシステムや音響で「ハズレ」というのが存在します。今年は、僕が「ハズレ」だった気がします(笑)
ステージに上がった際、オーディオシステムの調子がずっと悪くてライブに影響が出たりして...。「うわ、このままじゃ、自分がこれまで準備してきた完璧なパフォーマンスはできないな」と思いました。そこで、「何とかしないといけない、やってみよう!やろう!」と考え、気が付いたらマイクを持って客席に降りていました。
あの時の快感は今でもはっきりと覚えています。それに、まるで予定されていた演出だと思ってくださった方たちにも感謝しています。でも、本当はステージの上でみんな、緊張のあまり「どうしよう、どうしよう」と思いながらずっと視線を交わしていました(笑)
✦ 私も、ちょうどフェスにいて、その場面を目撃したのですが、「何あれ?演出!?どうやったらあんな演出ができるんだろう?」と思いました。
イ・スンユン : 実は突然の演出だったので、僕自身も当時僕がどんな姿でどのように歌ったのか、後から知りました(笑)
✦ それでは、単独コンサートの話に戻ります。海外や地方のコンサート、そしてソウルでのコンサート、それぞれ違った魅力があるとのお話がありましたが、特にどういった点で違いを感じましたか?
イ・スンユン : 一番規模の大きなコンサートはソウルで行うため、やっぱりスケールの差はありますね。ただ、そのスケールに優劣があるわけではなく、大きな会場はその規模ならではの感動がある一方で、スケールが小さいと客席との距離も近く温かみが感じられます。まだ、海外での単独コンサートは台湾公演しか経験がありませんが、他の地域でコンサートを行うと、同じ曲でも「この曲って、こんな感じだったっけ?」と感じることがあるんです。僕は、自分の曲に対するイメージカラーがあるんですが、他の地域で歌うと「この曲の色味がこんなに変わるんだ!」とたびたび感じています。
✦ それは自分の世界観を持っているアーティストにしか感じられない感覚ですよね?
イ・スンユン : そうですね。
✦ そういった点で、アーティストという職業が羨ましいです。毎回、日常から新しいひらめきを得ることができそうで...
イ・スンユン : そうですね。曲の色味や雰囲気が変わる経験とかね(笑)
✦ 日本向けに公開されるKittoのインタビューなので、再び日本のコンサートの話に戻ります(笑) 今回リリースされる2ndアルバムが日本のファンの方々には、今までとはまた違った魅力で溢れる斬新なアルバムに感じられると思うのですが、アルバムのコンセプトについて紹介していただけますか。また、日本のファンにぜひ聴いてほしい曲があれば教えてください。
イ・スンユン : 「Upon A Smile(笑ってくれた)」という曲を聴いていただきたいです。最近、すごく気に入っている曲でもあるので、ぜひリピートしてもらえたら嬉しいです(笑) あと、「Pricey Hangover(高い二日酔い)」を推していく予定なのでぜひ聴いてみてください。きっと気に入っていただけると思います!
そして、2ndアルバム「Shelter Of Dreams(夢の住処)」に関する話ですが、僕はオーディション番組の出身です。昨年の2~3月の頃、その番組での役割を果たし、単独コンサートまで終えた途端、突然、ある疑問が湧いてきました。「これから僕は何をして、どんな存在になるべきだろうか。何がしたいのか?」という疑問です。その時、「まず、アルバムを作りながら考えよう」と思いながら作ったのが2ndアルバムです。タイトル曲は「Shelter Of Dreams(夢の住処)」という曲です。僕たちは普段、「夢」のことを「夢をみる」「夢に向かって進む」という風に表現しますが、夢というのは叶ったり叶わなかったりするものじゃないですか。それなら、今、僕が夢をみているこの瞬間を培っていくことが大切なんだなと思ったんです。そんなことを思いながらタイトル曲とアルバムを作りました。なので、作る当時は、このアルバムで何かしてみようという考えは全くありませんでした。ただ、今このアルバムを良いものに仕上げたいという気持ちで、その瞬間を満喫しながら作ったアルバムです。
✦ 今回のアルバムはロックテイストの曲が多いですが、中には”くだらない話は愛の別の言葉かもしれない”、”君はいつも輝く星座”といったロマンチックな歌詞を含む曲もあります。ロックテイストの曲とロマンチックなアコースティック曲、それぞれのジャンルを代表する曲は何だと思いますか?
イ・スンユン : 僕は、自分の曲は全てラブソングだと思っています。「Shelter Of Dreams(夢の住処)」と「Unsubtitled(言語の不滅)」も、1stアルバムの「Words Befitting One Who Loves Someone(誰かを愛する人にふさわしい言葉)」も全てラブソングだと思います。
✦ それでは、ロマンチックな1stアルバムのコンセプトについても紹介していただけますか。
イ・スンユン : 1stアルバムのタイトルは「Even If Things Fall Apart(廃墟になっても)」です。「どうせ私たちはいつか消えるだろう。なのにどうして、古びていくはずの家を必死に建てて生きているのだろう。僕も同じじゃないか」と考えていたところ思いついた、「たとえ廃墟になるとしても、夢をみて、祈り、願い、心から喜びを感じながら生きていきたい」という気持ちを込めて作ったアルバムです。
✦ 1stアルバムと2ndアルバムの間にビジュアルや曲の変化が多かったと思いますが、それは自然な流れだったでしょうか。それとも、何かターニングポイントがありましたか?
イ・スンユン : 実は、作曲・作詞に対して大きな変化はありませんでした。1stアルバムはとにかく結果を出すことを優先していたとすると、2ndアルバムは前のアルバムより完成度を高めたいというのが優先だったので、そういった優先順位の違いはあったと思います。
✦ イ·スンユンさんが追い求めるアイデンティティを一言で表現してください。
イ・スンユン : 「音楽」です。そして、今思い浮かぶのは... 「ロマンチスト」!僕のアイデンティティはロマンチストだと思います。
✦ 日本は、韓国にとって最も近い「バンドとロックの天国」だとも言えますよね。日本は今もバンド文化が盛んで、日本国内だけで100万枚の売り上げを記録しているバンドもいるくらいですしね。イ·スンユンさんは、そんなバンド天国とも言える日本に進出します。今回のコンサートの後、引き続き日本で活動する予定はありますか?
イ・スンユン : まだ何の予定もありません。とりあえず行ってみようという気持ちです。・・・コンコンコン、お邪魔します。イ・スンユンと申します(笑) 日本の皆さん、よろしくお願いします!
✦ イ・スンユンさんの音楽は、歌詞を噛み締めることでより楽しめると思うのですが、日本をはじめ、海外のファンの方々に、どうしたら歌詞に込められた意味や気持ちが伝わるでしょうか?
イ・スンユン : 僕は、もちろん作詞にこだわりを持って楽曲作りに取り組んでいます。しかし、僕自身も音楽を聴く時には、メロディーが先行することもあります。ただ単純に、「あ、このメロディー、いいな」と思ったら、そのまま聴くタイプといいますか。 なので、日本のファンの方々も深く考えたり歌詞の意味を噛み締めずに、まずは聴いてみていただきたいです。聴いてみていいなと思ったら、どんどん聴いてください(笑)
✦ 普段から日本の文化や音楽に興味はありますか?
イ・スンユン : 僕は10代の頃、ブリットポップばかり聴いていました。同時に、当時日本のアニメにもハマっていたので、アニメ主題曲に起用されたバンドの曲もよく聴きましたね。そして、一番好きな映画は世界的に高い評価を得た是枝裕和監督の『奇跡』です。漫画なら『20世紀少年』ですね。あとは、日本のアニメや映画などの主題歌・挿入歌も大好きです。
✦ 日本公演ならではの見どころは何かありますか?コンサート前に準備しておくことや、コンサートを120%楽しめる方法があれば教えてください。
イ・スンユン : おそらく、このインタビューが公開される頃には、手遅れのような気もしますが(笑)、最初から最後まで一緒に楽しい思い出を作ろうという気持ちで気軽に来ていただきたいです。僕のことを知らなくても大丈夫です。気軽にコンサートを楽しんでいってください。
✦ 先ほど、言語を問わず自分の音楽を楽しんでもらいたいとのお話がありましたが、アジアを越えて、ヨーロッパやアメリカに進出する予定はありますか?また、韓国語以外の曲を作る予定はありますか?
イ・スンユン : いいえ、全くありません。Not at all! (笑) 実は、すでに韓国でも歌詞の意味が分からないという方が多いんです。僕の曲の歌詞は言葉遊び的な要素も強いし、歌詞であれこれ試すのが好きなので、それが海外のファンの方々ににどのように伝わるのか全く想像がつきません。なので、とりあえず当たって砕けてみるしかないと思います。韓国語以外の曲を作るよりは、今自分が作れる音楽をお届けしたいと思っています。
✦ 今回のコンサートでイ·スンユンさんに興味を持つようになった日本のファンたちが韓国語を勉強し、歌詞に込められた意味が伝わる日が来ることを心から祈ります。
さて、インタビューも終盤ですが、イ・スンユンさんにとって「Kitto(きっと)」叶うと信じたい未来はありますか?何か必ず叶えたいことはありますか?
イ・スンユン : もちろんあります!僕自身より長生きする歌をたくさん作りたいです。僕の歌が末長く生き残り、多くの人に愛されてほしいと思っています。
✦ 最後に、日本のファンに伝えたいことがあればぜひお願いします!
イ・スンユン : 応援してくださるファンの方々をはじめ、僕のことを初めて知った方やこのインタビューをご覧になった日本の皆さん、本当にありがとうございました。そして、このような機会をくださったKittoスタッフの皆さんにもとても感謝しています。
また行きたいなと思っていただけるコンサートにしたいと張り切っています。一生懸命準備しますので、ぜひご期待ください。ありがとうございました!
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